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【業務説明】TLF の体裁確認 — 解析帳票の改ページと配色の要件

1. このページの位置づけ
連載「目視の確認を自動チェックに」で扱う TLF の体裁確認 を、記事本編から切り離して解説する参照ページです。「TLF って何?」「どこで、誰が読むの?」「体裁の何を確かめているの?」に、この1ページで答えられるようにします。
- 数百ページ1つの試験の TLF がこの規模になることも珍しくない
- 9〜10pt米国 FDA が PDF の表に勧める文字の大きさ
- 約5%日本人男性で先天色覚異常のある人の割合(女性は約0.2%)
- 1か所脚注を1行足すだけで、後ろのページの改ページがすべてずれうる
このページの帳票の画像は、すべて架空のデータで作ったダミーです。 実在の試験・薬剤・企業とは関係ありません。
2. TLF とは
2-1. 表・一覧・図
TLF は Tables, Listings and Figures の略で、治験のデータを解析した結果を、決まった形の帳票にしたものです。
- 表(Table):群ごとの集計。患者背景、有効性の解析結果、有害事象の発現割合など
- 一覧(Listing):患者1人ずつの記録を並べたもの。中止した患者、プロトコルからの逸脱、有害事象の詳細など
- 図(Figure):生存曲線、推移のグラフ、フォレストプロットなど
2-2. TLF ができるまで
TLF は、解析を始める前から形が決まっています。統計解析計画書(SAP)で何を解析するかを決め、TLF の見本(シェル、モックとも呼ぶ)で表の枠・列・脚注まで決めておきます。データが固まったら、解析用のデータセットからプログラムで帳票を出力します。
出力は RTF か PDF が多く、最後に1つの PDF にまとめて、しおり(ブックマーク)を付けます。数値が正しいかは、別の担当者が同じ解析を独立にプログラムして突き合わせる、といった方法で確かめます。一方で、ページのどこで改ページされたか、図の色が見分けられるか、といった体裁は、多くの場合、人が PDF を開いて目で確かめています。
3. TLF が使われる場面
3-1. 開発部門 — 総括報告書と申請
TLF のいちばん大きな出番は、治験の総括報告書(CSR)と、それを束ねた承認申請の資料です。
総括報告書の構成を定めた ICH E3 では、主な結果を本文に要約の表として載せ、数や大きさで本文が読みにくくなる表・図は 14章 にまとめて本文から参照する形になっています。患者ごとの一覧は付録の 16.2 に置きます。14章には患者背景・有効性・安全性の表と図が、16.2 には中止例・逸脱・有害事象などの一覧が並びます。
総括報告書は CTD の第5部に入り、複数の試験をまとめた解析(併合解析)は第2部の臨床概要の材料になります。日本では PMDA、米国では FDA に提出し、多くは電子的な形式(eCTD)の中の PDF として渡ります。審査が始まってからも、当局からの照会に答えるために追加の解析を行い、その結果を TLF として出し直すことがよくあります。
開発部門では、このほかにも次のような場面で TLF を作ります。
- データモニタリング委員会:試験の途中で安全性や有効性を確かめるための報告
- 定期的な安全性の報告:開発中の安全性の情報をまとめた年次の報告など
- 社内の判断:試験の結果を受けて次の試験に進むかを決める会議の資料
3-2. メディカルアフェアーズ部門 — 学会・論文・医療関係者への情報提供
承認の前後から、メディカルアフェアーズ部門でも TLF を使う場面が増えます。
- 追加の解析:部分集団(年齢、重症度など)での結果や、長期の追跡のデータを、医療関係者の疑問に答える形で解析し直す
- 学会発表と論文:ポスター、口頭発表のスライド、論文の図表は、TLF をもとに作る
- 医療関係者への情報提供:MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)の説明資料や、問い合わせへの回答の資料
この場面では、図の色の問題が大きくなります。学会の会場のプロジェクター、白黒で印刷された論文、色覚の違いのある読み手。開発部門の帳票よりも、図が色で群を見分けさせる場面が多いからです。
3-3. 誰が読むか
| 読み手 | 立場 | 体裁が崩れていると |
|---|---|---|
| 統計解析・プログラミングの担当者 | 帳票を作り、数値を確かめる | 作り直しと確認がくり返しになる |
| メディカルライター | 帳票を本文に引用し、報告書をまとめる | 引用した表の位置やページ番号がずれる |
| QC の担当者 | 提出前に帳票の一貫性を確かめる | ページ数が多いほど見逃しが増える |
| 規制当局の審査官 | 申請資料を読んで判断する | 表の続きを探す手間、読み違いのもとになる |
| 医師・医療関係者 | 学会や論文で結果を読む | 群の違いが色で読み取れない |
4. 体裁の要件
4-1. 当局の PDF の要件
提出する PDF の作り方には、当局ごとに要件があります。
- 米国 FDA(PDF Specifications v4.1)
- 用紙はレターサイズ(8.5×11インチ)に収める。左の余白は3/4インチ以上、ほかの辺は3/8インチ以上
- 文字は9〜12ポイント。表は9〜10ポイントを勧め、それより小さい文字は避ける
- 文字の色は黒を勧める。明るい色はグレースケールのプリンターでうまく印刷されないので、使う色は提出前に試し刷りで確かめる
- 日本 PMDA(電子化 CTD の作成要領)
- 本文の日本語は原則10.5ポイント、図表の文字は判読できる大きさ(例:8ポイント以上)
- 文字の色は原則として黒。白黒のプリンターで適切に印刷されない明るい色は避ける
どちらも、審査官が紙に印刷して読むこと、白黒で印刷されうることを前提にしています。
4-2. 改ページ — 当局の決まりはなく、各社の決まりで守る
改ページの位置について、当局の要件に細かい定めはありません。ただ、読みやすさのために、多くの会社が帳票の作り方の決まりを持っています。よくあるのは次のようなものです。
- 表がページをまたぐときは、次のページにも列の見出しを入れる
- 1つの群や1人の患者の行が、ページの境目で泣き別れにならないようにする
- ページの最後に1〜2行だけ残して、残りを次のページに送らない
- ページの右側が大きく空いたまま、列が次のページに折り返されないようにする
4-3. 図の色 — 白黒と色覚
図の色について確かめたいことは2つあります。
- 白黒にしたとき:色が違っても明るさが近い2色(赤と緑など)は、グレースケールで印刷すると同じ灰色に見えます
- 色覚の違い:先天色覚異常のある人は、日本人男性の約5%、女性の約0.2%です。赤と緑の見分けにくさ(P型・D型)が多く、青と黄の見分けにくさ(T型)はまれです
線の種類(実線と破線)や記号を変えれば、色に頼らず見分けられます。ただ、群が多い図や、塗り分けた棒グラフでは、色の選び方そのものが効いてきます。
5. 改ページが崩れる理由
5-1. 1か所の変更が、後ろのページすべてに響く
帳票の改ページは、1ページに入る行数で決まります。行数が1行でも変わると、そのページの最後の行が次のページに送られ、後ろのページの区切りが順にずれていきます。
行数が変わるきっかけは、ふだんの作業の中にたくさんあります。
| きっかけ | 例 |
|---|---|
| 脚注の追加・変更 | 略語の説明や、解析対象の注記を1行足した |
| 長い文字列 | 有害事象の用語や薬剤名が長く、セルの中で2行に折り返された |
| 列幅・桁数 | 小数の桁を増やした、群を1つ足した |
| データの更新 | データが固まり直して、患者や事象が増えた |
| 書体の違い | PDF にまとめる環境で別の書体に置き換わり、文字の幅が変わった |
| 用紙の向き | 縦向きの設定の帳票を、横向きの束に入れた |
5-2. 崩れたページの見え方
崩れたページは、次のような形で現れます。どれも数値は正しく、数値の確認では見つかりません。
崩れたページに共通するのは、ページの下の端か右の端に、不自然に大きな余白があることです。連載の本編では、この余白の大きさを測って崩れたページを見つけます。
6. いまの確認のやり方と限界
6-1. 目で全ページを見る
改ページと図の色は、多くの場合、人が PDF を1ページずつめくって確かめています。
このやり方には、次の限界があります。
- ページ数が多いほど見逃す:数百ページを見続けると、集中が続きません
- 作り直すたびに見直す:脚注1行の修正でも、後ろのページすべてを見直す必要があります
- 締め切りの直前に重なる:データが固まってから提出まで、体裁の確認にかけられる時間は短くなりがちです
- 人によって基準がぶれる:「どれくらい空いたら崩れか」は、見る人によって変わります
6-2. 自動で確かめる考え方
体裁の確認を全部機械に任せることはできませんが、目で確かめるページと色の組を絞り込むことはできます。
- 改ページ:各ページの下の端と右の端の白い部分の割合を測り、大きいページに印を付ける。この方法は PharmaSUG 2026 で発表された論文(Yi Guo, Paper AP-233)にもとづきます
- 図の色:群に使う色の組ごとに、グレースケールにしたときの明るさの差、色そのものの差、色覚の違いによる見え方を計算し、見分けにくい組に印を付ける
連載で紹介する TLF Visual QC は、この2つを、PDF を外に送らずにブラウザの中だけで行うツールです。結果は目視確認の補助として使い、最終的な判断は各社の手順に従って行います。
7. 一次資料
- ICH E3 総括報告書の構成と内容 — 本文・14章・16.2 に置く表、図、一覧
- FDA Portable Document Format (PDF) Specifications v4.1 — 用紙・余白・文字の大きさ・色
- 電子化コモン・テクニカル・ドキュメントの作成要領(PMDA) — 日本の申請資料の PDF の書体・文字の色
- 先天色覚異常ってなんですか?(日本眼科医会) — 色覚異常の頻度
- PharmaSUG 2026 Paper AP-233 — 改ページを余白の割合で見つける手法
8. まとめ
- TLF は治験の解析結果の表・一覧・図。開発部門では総括報告書と申請資料に、メディカルアフェアーズ部門では追加の解析、学会発表、論文、医療関係者への情報提供に使われる
- 当局は PDF の文字の大きさや色に要件を設けていて、白黒で印刷されることを前提にしている。改ページは各社の決まりで守っている
- 改ページは、脚注1行や文字の折り返しで後ろのページまで崩れる。崩れたページは、下の端か右の端に不自然な余白ができる
- 図の色は、グレースケールと色覚の違いで見分けにくくなる
- 数値の確認はプログラムで行う一方、体裁はいまも人の目に頼っている。自動で確かめる仕組みで、目で見るページと色を絞り込める
次のステップ
連載の本編では、この2つの確認を自動で行うツール TLF Visual QC を、Claude Code と進めた過程とあわせて紹介します。改ページの検出の考え方、結果の確かめ方、配色の確認、帳票を外に出さない公開の形の順に見ていきます。
出典
- ICH E3「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」(Structure and Content of Clinical Study Reports)。https://www.fda.gov/media/71271/download
- U.S. FDA, Portable Document Format (PDF) Specifications, v4.1(2016年9月)。https://www.fda.gov/media/76797/download
- 厚生労働省 医薬・生活衛生局審査管理課長通知「「コモン・テクニカル・ドキュメントの電子化仕様の取扱いについて」の一部改正について」(薬生薬審発0824第3号、平成28年8月24日)別紙1「電子化コモン・テクニカル・ドキュメントの作成要領について」。https://www.pmda.go.jp/files/000213999.pdf
- 公益社団法人日本眼科医会「先天色覚異常ってなんですか?」(2018年4月1日)。https://www.gankaikai.or.jp/colorvision/20180415_color.pdf
- Yi Guo. Detecting Abnormal Page Breaks Using Grayscale Pixel-Density Analysis in R Shiny. PharmaSUG 2026, Paper AP-233. https://pharmasug.org/proceedings/2026/AP/PharmaSUG-2026-AP-233.pdf
- 本ページの帳票の画像は、架空のデータで作成したダミーです。実在の試験・薬剤・企業とは関係ありません




