データマネジメント組織の作り方|「データスチュワード」の役割とDX人材の配置
データマネジメント組織(DMO)の作り方とDX人材の戦略配置
デジタルトランスフォーメーション(DX)の成否は、企業が保有する「データ」をどれだけ正確かつ迅速に活用できるかにかかっています。しかし、「社内のデータがシステムごとに分散していて、どこにあるかわからない」「データが整備されておらず、分析にすぐ使えない」といった課題に直面し、データ活用のスタートラインでつまずいている企業は少なくありません。この問題を解決し、データを戦略的な資産に変えるためには、全社横断的な「データマネジメント組織(DMO)」の構築が不可欠です。
本記事は、プロフェッショナルなメディカル・テクニカルライターの視点から、DMO構築の全体像と、その中核となる「データスチュワード」の役割、そしてデータサイエンティストなどのDX人材を効果的に配置する戦略を解説します。この記事を読むことで、あなたの組織がデータ駆動型経営へ移行するための具体的なロードマップと、必要な人材戦略を理解できます。
1. データ活用の課題を解決するDMO構築の全体像
データマネジメント組織(DMO)の構築は、DXを円滑に推進するための基盤整備であり、企業内に散在するデータを一元化し、誰もが使いやすい形に整えることを目的とします。データ統合の作業は、特にシステム間でデータ設計が異なる場合、膨大な時間と労力を消費するため、部門間の協調や管理を専門に行うDMOを設けることが非常に効果的です。DMOは、データ活用の成果獲得に直結する内製化戦略の要となります。
成功の鍵は、データマネジメントの活動を、内製化やデータ基盤導入自体を目標とするのではなく、「DXの目的」と連動させることです。体系的なフレームワークである「DMBOK(Data Management Body of Knowledge)」を活用し、データマネジメント業務を漏れなく定義し、その成熟度を評価することで、施策策定や評価に役立てることが可能です。DMOの設計においては、経営企画室主導、情報システム部門主導など、企業の文化や戦略に応じた最適な組織類型を選択することが重要となります。
DMOはデータ統合のコスト削減とデータ活用のスピード向上に寄与します。デジタル化の進行により、組織的にデータマネジメントを実行する効果はさらに大きくなります。初期段階でデータ設計を統一するためのコストはかかりますが、後のデータ統合コストを大幅に削減し、データ活用を促進することが統計的に示されています。
2. データスチュワードの役割:データ品質とガバナンスの専門家
データスチュワードは、企業の貴重な資産である「データ」を責任を持って管理運用する「管財人(Steward)」にあたる職種です。その役割は単なるデータ管理者ではなく、データガバナンスを現場で実行するキーパーソンであり、データの正確性や透明性を維持し、組織全体で安心して活用できる環境を整えます。
具体的な業務は多岐にわたりますが、特に重要なのは、現場の業務施策からデータ要件を整理・調整し、定義することです。データスチュワードは、IT部門とビジネスユーザーの間の重要な仲介役となり、分析や業務上の意思決定に使われるデータの信頼性を高めることに貢献します。この役割の導入により、データ品質の向上、データ管理の統合、コンプライアンス遵守、そしてデータ関連コストの最適化といったメリットが期待できます。
- データ品質の管理: データ品質指標を設定し、逸脱したデータの処理を決定します。
- メタデータ管理: データの所在や説明、定義を明確化し、利用者がデータを発見・理解できるようにします。
- データ利用ルールの策定: セキュリティやプライバシーに配慮したデータ利用のルールを作成・浸透させます。
- データライフサイクルの監督: データの収集から廃棄までの全プロセスを管理し、効率化を促進します。
3. DX人材(データサイエンティスト・エンジニア)の配置戦略
DMOの機能を持続的に発揮させるためには、データスチュワードに加え、データサイエンティストやデータエンジニアといった専門性の高いDX人材の適切な配置が不可欠です。これらの人材は、データの「活用」と「基盤整備」の両面で重要な役割を担います。例えば、データサイエンティストは、統計解析手法やソフトウェアの知識を持ち、業務施策に基づいた適切な分析結果をデータ活用者に提供する「問題を分析する人」です。
また、データアーキテクトは、組織全体の将来を見据えたデータ構造のブループリントを策定し、組織全体に浸透させる役割を担います。データインテグレーターは、システム間のデータ連携の品質に責任を持ち、ガバナンスルールに基づく設計を行います。これらの役割を明確に定義し、経営層にはチーフデータオフィサ(CDO)を配置することで、経営戦略とデータ戦略を連動させることが可能になります。
| 役割 | 主要なミッション | DMO内での位置づけ |
|---|---|---|
| チーフデータオフィサ(CDO) | 経営戦略に基づくデータ戦略の策定と推進 | 経営層直下の責任者 |
| データスチュワード | データガバナンスの現場実行、データ品質・定義の管理 | ビジネス部門とIT部門の仲介役 |
| データサイエンティスト | 統計解析による業務施策へのインサイト提供 | データ分析・活用チーム |
| データアーキテクト | 組織全体のデータアーキテクチャ設計と標準化 | データ基盤・技術チーム |
4. 成功に導くための組織体制と運営モデル
DMOを成功させるためには、組織体制の構築と運営モデルの策定が体系的に行われる必要があります。データマネジメントの取り組みロードマップは、一般的に以下の4つのフェーズで進められます。
ビジネスのゴールと、それを達成するために必要なデータを明確に定義し、データマネジメントの目標を設定します。
データごとのセキュリティレベル、利用者のアクセス権限、および法規制に合わせた管理基準を整理します。
データ基盤の構築やデータカタログの整備、データ品質管理の仕組みを実装します。
策定したルールに基づき、データ品質の継続的なモニタリングと改善、全社へのスキル定着化を推進します。
特に重要なのは、DMOが業務部門に対してデータ品質改善を依頼できる「権限」を持つことです。このため、DMOはトップに経営役員を据えるか、経営層の直下に配置するなど、組織的な後ろ盾を確保することがデータガバナンスを機能させるための鍵となります。
5. 組織構築における注意点と失敗事例からの教訓
DMO構築を成功に導くためには、陥りがちな失敗パターンを理解し、対策を講じることが重要です。多くの企業がデータ活用でつまずく原因の一つに、データマネジメントが「ビジネスの成果を上げるための手段」ではなく、「内製化やデータ基盤導入自体」を目標にしてしまう点が挙げられます。データ分析基盤やBIツールの導入に多額の投資をしたにもかかわらず、データ活用が進まないケースは多く発生しています。
また、データ設計の統一には初期コストがかかりますが、縦割りの部署ごとにデータが管理されることで生じる業務の重複や非効率化は、中長期的に見るとデータ統合のコストを増大させ、データ活用のスピードを阻害します。データ資産の価値向上を実現するためには、データ戦略に基づいたデータへの継続的な投資と、データスチュワードを中心とした統制活動が必要です。
失敗を避けるためには、全社で一貫した方針と優先順位に基づき、まずは組織やスコープを限定したスモールスタートで迅速に価値を実証し、その後、段階的に全社展開へと拡大する柔軟な導入支援モデルを採用することが推奨されます。
組織がデータマネジメントを推進する際、目標設定を誤ると、活動が目的から離れてしまい、経営に貢献できなくなります。データマネジメント活動は、必ず経営戦略や事業方針、そしてデータに関する法規制などを勘案したうえで、ビジネスゴールに紐づいた目標を設定しなければなりません。技術先行ではなく、ビジネス主導で推進することが肝要です。
まとめ
データマネジメント組織(DMO)の構築は、DX推進におけるデータ資産化とデータ駆動型経営を実現するための最重要課題です。DMOは、企業内に散在するデータの統合と品質維持を一元的に担う専門組織であり、その成功は、DMBOKなどのフレームワークを活用し、DXの目的と連動した目標設定を行うかにかかっています。
特に「データスチュワード」は、データガバナンスを現場で実行する中核人材として、データ品質の管理や利用ルールの策定、IT部門とビジネス部門の仲介役といった多岐にわたる責任を持ちます。また、データサイエンティストやデータアーキテクトといったDX人材を戦略的に配置することで、データの活用(分析)と整備(基盤)の両輪を回すことが可能になります。DMOを経営層直下に配置し、業務部門への改善要求権限を持たせることで、組織全体でのデータに対する意識と品質を向上させ、データ活用の成果を最大化できます。まずはスモールスタートで価値を実証し、段階的に全社展開を目指しましょう。
株式会社ヘルツレーベン代表 木下 渉
株式会社ヘルツレーベン 代表取締役/医療・製薬・医療機器領域に特化したDXコンサルタント/
横浜市立大学大学院 ヘルスデータサイエンス研究科 修了。
製薬・医療機器企業向けのデータ利活用支援、提案代行、営業戦略支援を中心に、医療従事者向けのデジタルスキル教育にも取り組む。AI・データ活用の専門家として、企業研修、プロジェクトPMO、生成AI導入支援など幅広く活動中。

