AIが拓く次世代介護の全貌。見守りから排泄予測まで最新技術
AIが拓く次世代介護の全貌。見守りから排泄予測まで最新技術を徹底解説【2025年最新版】
「夜間の見回りで心身ともに疲弊している」「記録作業に追われて、利用者さんと向き合う時間がない」「いつ起こるかわからないヒヤリハットに常に怯えている」
日本の介護現場は、深刻な人手不足と高齢化の波に直面し、多くの職員がこのような悩みを抱えています。2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となり、介護需要はさらに急増すると予測されており、この問題は「2025年問題」として知られています。厚生労働省の推計では、2025年度には約32万人もの介護職員が不足すると見込まれています。
このような厳しい状況を打破する鍵として、今まさに注目を集めているのが「AI(人工知能)」をはじめとする介護テクノロジーです。
この記事では、AIが介護現場をどのように変え、職員と利用者の双方にどのような未来をもたらすのか、最新の技術トレンドを交えながら、AI介護技術の具体的な種類と機能、現場にもたらされるメリットと導入前の課題、多様なシステムの比較と選び方のポイントを詳しく解説します。AIは決して人の仕事を奪うものではなく、むしろ専門性を高め、より質の高いケアを実現するための強力なパートナーです。この記事を読めば、AI介護の最前線と、あなたの現場の課題を解決するヒントがきっと見つかるはずです。
人手不足と負担増…「もう限界」と感じる介護現場のあなたへ
2025年問題の中心にあるのは、介護ニーズの急増と、それを支える介護職員の不足です。厚生労働省の推計では、2025年度には約243万人の介護職員が必要とされていますが、現状のままでは約32万人が不足する見通しです。この深刻な人材不足は、現職の職員一人あたりの業務負担を増大させ、特に夜間の見守りや記録業務の多さが、心身の疲弊や離職の原因となっています。
介護職員の皆さんが抱える「もう限界」という感覚は、単なる精神論で解決できる問題ではありません。この状況を改善し、介護の質を維持・向上させるためには、テクノロジーの力を活用した「生産性の向上」と「業務の効率化」が不可欠です。AI技術は、職員の“目”や“耳”、そして“事務作業の代行者”となることで、職員を単純作業や精神的プレッシャーから解放し、利用者と向き合う時間を確保するためのツールとして期待されています。
注目されるAI介護技術、その全体像
AI介護技術は、厚生労働省が重点分野として定めている「移乗介助」「排泄支援」「見守り・コミュニケーション」「介護業務支援」など多岐にわたります。ここでは代表的な技術とその概要を紹介します。
- 見守りシステム: 居室のカメラや非接触センサー、AI解析技術を用いて、利用者の転倒、離床、睡眠・覚醒リズムなどの状態を24時間把握します。異常を検知した際にのみ職員にアラートを出すことで、不要な巡回を減らします。プライバシーに配慮したシルエット表示機能を持つ製品もあります。
- 排泄予測システム: 超音波センサーなどで膀胱の状態を超音波でモニタリングし、AIが排尿のタイミングを予測・通知します。これにより、適切なタイミングでのオムツ交換やトイレ誘導が可能となり、不要な確認を削減します。
- 介護記録ソフト: 音声入力やAI-OCR(光学的文字認識)技術により、手書き記録を自動でデータ化します。また、見守りシステムと連携し、バイタルデータや行動記録を自動で取り込むことで、記録業務の大幅な時間削減(最大80%の削減事例も報告されています)を実現します。
- ケアプラン作成支援AI: 利用者の過去のデータ、アセスメント情報、生活習慣などをAIが分析し、最適なケアプランの草案を自動で作成します。これは、職員の経験や勘に頼らない、客観的データに基づいたケア計画の立案をサポートします。
- コミュニケーションロボット: 高齢者との対話やレクリエーションを支援し、孤独感の解消や認知機能の維持に貢献します。
これらの技術は、それぞれが独立して機能するだけでなく、例えば見守りシステムと介護記録ソフトが連携するなど、複合的な効果を発揮することで介護の質の向上と効率化を同時に実現します。
AI介護が現場にもたらす3つの大きなメリット
良かった点1: 介護職員の「心身の負担」を劇的に軽減
AI介護の最大のメリットは、職員の負担軽減です。特に、精神的・肉体的に大きな負担となる夜間の巡視業務は、AI見守りシステムによって大きく変わります。センサーやAIカメラが利用者の離床や異常な動きを検知してアラートを出すため、本当に介入が必要な時にだけ対応すればよくなります。実際に、排泄予測AIの導入により夜間巡視を50%削減した事例も報告されています。これにより、職員は十分な休息を取りながら、利用者の安全を確保できます。
また、移乗介助をサポートする装着型ロボットは、腰痛のリスクを大幅に低減させます。さらに、介護記録の自動化は、毎日数時間かかっていた事務作業から職員を解放し、本来のケア業務に集中できる時間を生み出します。
良かった点2: データに基づく「質の高い介護」の実現
これまで個々の職員の経験や勘に頼りがちだった介護が、AIによって客観的なデータに基づいた「科学的介護」へと進化します。見守りシステムは、利用者の睡眠の深さ、心拍数、呼吸数といったバイタルデータを継続的に収集・分析します。これらのデータを活用することで、体調変化の兆候を早期に発見したり、一人ひとりの生活リズムに合わせた最適なケアを提供したりすることが可能になります。排泄予測システムも同様に、個人の排泄パターンをデータ化することで、適切なタイミングでのトイレ誘導が実現し、失禁による肌トラブルや尊厳の喪失を防ぎます。
良かった点3: 利用者と家族の「安心とQOL」の向上
AI技術は、利用者の生活の質(QOL)向上にも大きく貢献します。排泄予測デバイスの活用は、おむつへの依存を減らし、自立排泄を促すきっかけとなります。また、見守りシステムは、プライバシーに配慮したシルエット表示機能などを備えたものもあり、常に監視されているという不快感を与えずに安全を確保します。さらに、システムによっては、収集したデータを家族と共有できる機能もあり、離れて暮らす家族が親の様子を確認できることは、大きな安心感につながるでしょう。
導入前に知っておきたいAI介護の課題と注意点
多くのメリットがある一方で、AI介護技術の導入にはいくつかの課題も存在します。事前にこれらを理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。
注意点1: 高額な導入・運用コストと補助金活用
AI介護システムの導入には、機器の購入費、月々の利用料、メンテナンス費用といったランニングコストに加え、施設内のWi-Fi環境整備などの初期費用もかかります。特に小規模施設にとっては、導入コストが高額であることが最大の障壁となり得ます。
ただし、国や自治体は介護現場のDXを推進するため、補助金制度を積極的に用意しています。特に2025年度(令和7年度)は、地域医療介護総合確保基金の『介護テクノロジー導入支援事業』に加え、2024年度補正予算を繰り越した『介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策』など、複数の制度が並走しています。後者は補助率が高く(75〜80%助成)、機器の更新にも活用できるなど、事業者にとってメリットが大きい可能性があります。これらの制度を最大限に活用することが、コスト課題を克服する現実的な対策です。
注意点2: 職員のITリテラシーと教育体制
最新のシステムを導入しても、職員が使いこなせなければ意味がありません。IT機器の操作に不慣れな職員がいる場合、導入への抵抗感が生まれることも考えられます。導入を成功させるためには、操作が直感的でわかりやすいシステムを選ぶことはもちろん、以下の対策が重要です。
- **段階的な導入と研修**: 全員を一斉に教育するのではなく、まずは一部の職員で試験的に導入し、成功事例を作ることで、徐々に理解を広げていく。
- **ベンダーのサポート**: 導入後の研修や、トラブル時のサポート体制が充実しているベンダーを選ぶ。
- **目的の共有**: AIがなぜ必要なのか、それが職員の仕事と利用者のケアにどのような良い影響をもたらすのかを丁寧に説明し、職員が主体的に取り組める環境を作ることが成功の鍵となります。
多様なAI介護システム、どう選ぶ?目的別比較
AI介護システムは多種多様で、それぞれに特徴があります。自施設に最適なシステムを選ぶためには、「何を解決したいのか」という目的を明確にすることが重要です。以下の表を参考に、自施設の課題解決に最適なシステムを選定してください。
| 解決したい課題 | 推奨されるシステム | 選定時の比較ポイント |
|---|---|---|
| 夜間の転倒・転落事故を未然に防ぐ | 見守りシステム | センサーの種類(マットレス下、カメラ、赤外線など)、アラートの正確性(誤報の少なさ)、既存ナースコールとの連携性、プライバシー保護機能(シルエット表示など) |
| おむつ交換の負担軽減と利用者の尊厳維持 | 排泄予測システム | 装着方法(貼付型、ベルト型、非接触型)、予測の精度(AI学習機能)、使いやすさ(通知方法、記録の自動化) |
| 介護記録業務の効率化と専門業務への集中 | 介護記録ソフト | 入力方法(音声入力、スマホアプリ対応)、既存の介護請求ソフトとの連携性、導入後のサポート体制 |
| 職員の身体的負担(特に腰痛リスク)の軽減 | 移乗支援ロボット | ロボットの形式(装着型、リフト型)、補助パワー(介助に必要な力)、操作の容易さ、安全性 |
重要なのは、一つの製品だけで全ての課題を解決しようとしないことです。自施設の課題を洗い出し、それぞれの目的に合った複数のシステムを組み合わせて最適な環境を構築していく視点が求められます。
AI介護はどんな施設や家庭におすすめ?
AI介護技術は、特定の施設だけでなく、様々なニーズに応えることができます。
こんな施設・家庭に特におすすめ
- 夜間の職員体制が手薄な施設: 見守りシステムが職員の目となり、耳となることで、少人数でも質の高い安全なケアを提供できます。
- 職員の負担軽減と離職率改善を急務とする施設: 介護記録ソフトや移乗支援ロボットは、職員の心身の負担を直接的に軽減し、働きやすい職場環境の実現に貢献します。
- データに基づいた個別ケアを推進したい施設: 各種センサーから得られる客観的なデータは、ケアプランの質を向上させるための貴重なエビデンスとなります。
- 在宅介護で家族の負担を減らしたい家庭: 離れた場所からでも様子がわかる見守りシステムや、トイレのタイミングを教えてくれる排泄予測デバイスは、介護する家族の精神的・時間的負担を大きく減らします。
導入を慎重に検討すべきケース
- 導入・運用コストの捻出が難しい小規模施設: まずは補助金の活用を最大限に検討し、スモールスタートできる安価なシステムから試してみるのが良いでしょう。
- 職員のITアレルギーが非常に強い施設: トップダウンで導入を進めるのではなく、まずは一部の職員で試験的に導入し、成功事例を作ることで、徐々に理解を広げていくアプローチが有効です。
まとめ
深刻化する人手不足と2025年問題という大きな課題を前に、日本の介護業界は変革の時を迎えています。AI介護技術は、単なる業務効率化ツールではありません。それは、職員の負担を軽減し、専門性を高め、データに基づいて一人ひとりの利用者に寄り添った質の高いケアを実現するための、強力なパートナーです。
もちろん、導入にはコストや教育といったハードルがありますが、2025年度の補助金制度を活用することで、初期費用を抑えることは可能です。見守りシステムによる事故の未然防止、排泄予測による尊厳の維持、介護記録の自動化による時間の創出など、そのメリットは計り知れません。
AIが進化しても、「人の手による温かさ」が介護の根幹であることは変わりません。AIに任せられる業務は任せ、人は人でしかできない、より創造的で温かみのあるケアに集中する。そんな次世代の介護を実現するために、まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。
株式会社ヘルツレーベン代表 木下 渉
株式会社ヘルツレーベン 代表取締役/医療・製薬・医療機器領域に特化したDXコンサルタント/
横浜市立大学大学院 ヘルスデータサイエンス研究科 修了。
製薬・医療機器企業向けのデータ利活用支援、提案代行、営業戦略支援を中心に、医療従事者向けのデジタルスキル教育にも取り組む。AI・データ活用の専門家として、企業研修、プロジェクトPMO、生成AI導入支援など幅広く活動中。

