プログラミング不要!ノーコードで実現する医療・介護現場の業務改善アイデア5選
プログラミング不要!ノーコードで実現する医療・介護現場の業務改善アイデア5選【2025年版】
2025年には、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護の需要が急増すると予測されています。この「2025年問題」を目前に、多くの医療・介護現場では、深刻な人手不足やスタッフの業務負担増加といった課題に直面しています。国も地域包括ケアシステムの構築やICT活用による生産性向上・業務効率化を対策として掲げています。
「日々の記録や報告書の作成に時間がかかりすぎる…」「スタッフ間の情報共有がうまくいかず、抜け漏れが起きやすい…」「ITツールを導入したいが、専門知識を持つ職員がいないし、コストもかけられない…」このような悩みを抱える現場は少なくないでしょう。しかし、こうした課題は、プログラミングの知識がなくても誰でも簡単に業務アプリを作成できる「ノーコードツール」を活用することで、解決できるかもしれません。
この記事では、ITが苦手な方でもすぐに実践できる、ノーコードツールを使った医療・介護現場の業務改善アイデアを5つ、具体的にご紹介します。この記事を読めば、あなたの職場でもDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、スタッフの負担を軽減しながら、より質の高いケアを提供するためのヒントが見つかるはずです。
人手不足にもう悩まない!ITが苦手でも始められる、医療・介護現場のDXとは?
2025年問題により、介護職は31万人、看護職員は22万人の不足が推計されるなど、医療・介護分野の人材不足は極めて深刻です。 このような状況下で、質の高いケアを継続的に提供するためには、スタッフ一人ひとりの業務生産性を向上させることが急務となっています。そこで注目されているのが、ITを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
- DXの目的: 患者・利用者の情報共有を円滑にし、記録や申し送り、物品管理などのノンコア業務(専門外業務)にかかる時間を削減し、専門的なケア業務に集中できる環境を作ることです。
- IT導入の障壁: 従来のシステム開発は高額な費用と専門知識を要するため、特に中小規模の医療機関や介護施設にとってはハードルが高いものでした。
- ノーコードが解決の鍵: ノーコードツールは、プログラミング知識を持つIT人材がいなくても、現場のスタッフが自らの手で業務に最適化したアプリケーションを開発・改善できるため、この障壁を打ち破るツールとして期待されています。
そもそも「ノーコードツール」とは?専門知識なしで業務アプリが作れる仕組み
ノーコードツールとは、ソースコードを一切記述することなく、Webサイトやアプリケーションを開発できるクラウドサービスです。通常、システム開発にはプログラミング言語の専門知識が必要ですが、ノーコードツールを使えば、まるでパワーポイントやエクセルのように、ドラッグ&ドロップなどの直感的なマウス操作で、自社の業務に合わせたオリジナルのアプリを作成できます。
近年、企業のDX推進やIT人材不足を背景にノーコードツールの市場は急速に拡大しています。ITRの調査によると、国内のローコード/ノーコード開発市場は2025年度には1,000億円を突破する見込みで、今後もこの成長傾向が続くと予測されています。
- 専門知識が不要: プログラマーやIT担当者がいなくても、現場のスタッフが自ら開発できます。
- 開発スピードが速い: テンプレートなどを活用し、短期間でアプリを構築・改善できます。
- コストを削減できる: 外部の開発会社に委託する必要がなく、人件費や開発費用を大幅に抑えることが可能です。
代表的なツールには、「kintone(キントーン)」やGoogleが提供する「AppSheet」、Microsoftの「Power Apps」などがあり、様々な業務に対応したサービスが登場しています。
明日から実践できる!ノーコードツールを活用した業務改善アイデア5選
それでは、具体的にノーコードツールを医療・介護現場でどのように活用できるのか、5つのアイデアをご紹介します。これらのアプリは、市販のテンプレートを活用するか、エクセルやスプレッドシートのデータを読み込むだけで作成が可能です。
- アイデア1:リアルタイム情報共有で抜け漏れ防止!「日報・ヒヤリハット報告アプリ」
紙や口頭での報告は、伝達ミスや情報の属人化といった問題が起こりがちです。ノーコードツールで報告用アプリを作成すれば、スマートフォンやタブレットからいつでもどこでも簡単に入力でき、関係者全員にリアルタイムで情報が共有されます。過去の報告もキーワードで簡単に検索でき、事故の傾向を把握し、サービス品質の向上に繋げられます。
- アイデア2:面倒な在庫管理を自動化!「備品・医薬品在庫管理アプリ」
マスクや消毒液、医薬品などの在庫を目視で確認し、手書きで管理するのは大変な手間です。ノーコードで在庫管理アプリを作成すれば、備品のバーコードをスマホで読み取って入出庫を記録したり、在庫が一定数を下回ったら自動で管理者に通知を送ったりする仕組みを簡単に作れ、棚卸しの時間削減や発注ミスの防止に役立ちます。
- アイデア3:ペーパーレスで探す手間ゼロ!「各種マニュアル・手順書管理アプリ」
紙のマニュアルは、更新が大変な上に、必要な情報を探すのにも時間がかかります。ノーコードツールでマニュアル管理アプリを作れば、常に最新の情報を全員で共有できます。新人スタッフでも正しい手順をすぐに確認でき、業務の標準化や教育コストの削減に繋がります。
- アイデア4:属人化を防ぎ、サービス品質を均一化!「利用者カルテ・ケア記録アプリ」
手書きの利用者カルテやケア記録は、担当者によって書き方がバラバラになる課題があります。ノーコードでアプリ化すれば、入力項目をテンプレート化して選択式入力を活用することで、記録にかかる時間を短縮し、多職種間でのカンファレンスや申し送りがスムーズになります。
- アイデア5:シフト作成の負担を大幅削減!「職員の希望シフト申請・管理アプリ」
職員の希望を紙やメールで集め、Excelで複雑なシフト表を作成するのは、管理者にとって大きな負担です。ノーコードツールでシフト管理アプリを作成すれば、職員はスマホから希望シフトを申請でき、管理者は集まった希望を一覧で確認しながら、公平なシフト調整や急な欠員への迅速な人員調整が可能になります。
「簡単」だけじゃない?ノーコードツール導入で失敗しないための注意点
- 注意点1:複雑な処理や大規模開発には不向きな場合がある
ノーコードツールは手軽さが魅力ですが、既存の電子カルテシステムとの高度な連携や、非常に複雑な独自機能の実装には向いていない場合があります。まずは特定の業務に絞ってスモールスタートするのが成功の鍵です。
- 注意点2:セキュリティ要件の確認が必須
医療・介護現場では、患者や利用者の機微な個人情報を取り扱います。そのため、ツールの選定にあたっては、厚生労働省などが定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠しているかなど、セキュリティ基準を十分に確認する必要があります。このガイドラインは、近年のサイバー攻撃の深刻化やクラウドサービスの普及を踏まえ、令和5年5月に第6.0版に改定されており、最新のリスクに対応した安全管理措置が求められています。
- 注意点3:導入して終わりではなく、運用ルール作りが重要
便利なツールも、現場で使われなければ意味がありません。「誰が、いつ、どのように入力するのか」といった運用ルールを明確にし、現場スタッフへの丁寧な説明と定着に向けたサポートが不可欠です。
どれを選べばいい?代表的なノーコードツールの特徴を比較
ここでは、医療・介護現場でも導入実績のある代表的なノーコードツールを3つご紹介します。自社の既存のIT環境や目的に合わせて選定しましょう。
| ツール名 | 特徴 | おすすめの現場・利用シーン |
|---|---|---|
| kintone(キントーン) | サイボウズ社提供の日本産ツール。豊富な業務アプリテンプレートと手厚いサポート体制が強み。ノーコードとローコードの両方に対応。 | ITツールに不慣れなスタッフが多い現場、日本語での充実したサポートを重視したい場合、まずはテンプレートを活用して手軽に始めたい場合 |
| Google AppSheet | Google提供。Googleスプレッドシートなどの既存データからアプリを簡単に作成できるデータファーストのツール。Google Workspaceとの強力な連携が魅力。 | 既にGoogleスプレッドシートなどで情報管理を行っている場合、コストを抑えてスモールスタートしたい場合、Googleの他サービスを日常的に利用している場合 |
| Microsoft Power Apps | Microsoft提供。Excel、TeamsなどのOffice 365(Microsoft 365)製品との高い親和性。連携と拡張性に優れ、複雑な業務プロセス全体を自動化できる。 | Office 365を全社的に導入済みの企業、Excel中心の業務からの脱却を目指す場合、将来的には他システムとの連携を視野に入れている場合 |
これらのツールは、それぞれ得意分野が異なります。例えば、AppSheetは既存のデータを活かしたアプリ開発に強みを持ち、Power AppsはMicrosoft 365のエコシステムとの連携、kintoneは現場主導で改善を続けるためのコミュニティ機能やサポート体制に強みがあります。
あなたの職場はどっち?ノーコードツール導入をおすすめする現場・しない現場
ノーコードツールの導入が成功しやすい現場と、慎重になるべき現場には傾向があります。導入判断の参考にしてください。
- <こんな現場・担当者におすすめ>
- ITの専任担当者はいないが、現場主導で業務改善を進めたいと考えている。
- 紙やExcel、FAXでのアナログな情報管理に限界を感じている。
- 高額なシステム投資は難しいが、まずは低コストでDXを試してみたい。
- 現場の業務をよく理解している人が、自ら改善の仕組みを作りたい。
- <導入がおすすめできない、または慎重になるべき現場>
- 電子カルテや介護保険請求ソフトなど、既存の基幹システムとの複雑かつ大規模なデータ連携が必須要件である。
- 現場の協力が得られず、ツールを導入すれば解決するという安易なトップダウンの考えがある。
- 非常に大規模かつ、全社統一の厳密なシステム構築を求めており、カスタマイズの柔軟性よりも堅牢性を最優先する場合。
まとめ
人手不足が深刻化し、業務効率化が急務となっている医療・介護現場にとって、プログラミング不要で誰でも使えるノーコードツールは、まさに救世主となり得る存在です。
今回ご紹介した5つのアイデアのように、ノーコードツールを使えば、これまで時間と手間がかかっていた煩雑な事務作業を大幅に削減し、スタッフが本来の専門的なケア業務に集中できる環境を整えることができます。重要なのは、いきなり大規模なシステムを目指すのではなく、まずは「日報管理」や「備品管理」といった身近な課題から、セキュリティ要件(厚労省ガイドラインなど)を遵守しつつスモールスタートしてみることです。多くのノーコードツールには無料トライアル期間が設けられています。この記事を参考に、ぜひあなたの職場の課題解決に向けた第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
株式会社ヘルツレーベン代表 木下 渉
株式会社ヘルツレーベン 代表取締役/医療・製薬・医療機器領域に特化したDXコンサルタント/
横浜市立大学大学院 ヘルスデータサイエンス研究科 修了。
製薬・医療機器企業向けのデータ利活用支援、提案代行、営業戦略支援を中心に、医療従事者向けのデジタルスキル教育にも取り組む。AI・データ活用の専門家として、企業研修、プロジェクトPMO、生成AI導入支援など幅広く活動中。

