研究データ管理(RDM)システム|実験データ検索の「ナレッジマネジメント」効率化
研究データ管理(RDM)システムが実現するナレッジマネジメントの革新
今日の研究開発において、実験データの量は爆発的に増加しており、「あのデータはどこに保存した?」「この解析結果は誰が、いつ、どのような手法で出したのか?」といった、データ検索と活用の非効率性が深刻な課題となっています。研究者の貴重な時間の約30%がデータの整理や検索に費やされているという報告もあり、これはイノベーションの大きなボトルネックです。本記事は、この課題を解決するための決定打となる研究データ管理(RDM:Research Data Management)システムに焦点を当てます。RDMシステムは、単なるストレージではなく、個人に依存していた実験の「暗黙知」を組織で共有可能な「形式知」に変える、ナレッジマネジメントの次世代インフラです。本記事を読むことで、RDMの核心的な機能、導入による具体的なメリット、そして研究公正と競争力強化に不可欠な理由を深く理解し、貴社の研究開発体制を未来志向型へと変革する道筋が見えてきます。
1. 研究データ検索の非効率性:イノベーションを阻む「暗黙知の壁」
多くの研究機関や企業の研究開発部門では、実験データがローカルPC、共有サーバー、USBメモリなど、部門や個人によって異なる場所に散在しています。この「データのサイロ化」は、過去の有益な実験結果を再利用することを極めて困難にし、研究の停滞を招く主因です。特に、実験プロトコルや解析手法といったデータに付随する重要な情報は、担当者のノートや記憶の中に留まる「暗黙知」となりがちです。これにより、担当者が異動・退職すると、その知識は組織から失われてしまいます。この属人性の問題こそが、研究の再現性や透明性を損ない、非効率な再実験を繰り返す原因となります。この問題の解決は、研究開発のスピードと質を向上させるための最優先事項であり、ナレッジマネジメントの観点から、暗黙知を体系的な「形式知」へと変換する仕組みが求められています。
2. RDMシステムとは?ナレッジマネジメント効率化の結論
研究データ管理(RDM)システムは、研究者が生成・収集した全てのデータとその関連情報(メタデータ、プロトコル、解析コードなど)を、研究のライフサイクル全体を通じて体系的に組織化、構造化、保存、管理するための基盤です。これは、単なる大容量ストレージではなく、実験データ検索をナレッジマネジメントとして効率化するためのソリューションです。RDMを導入することで、研究活動中に生成されるファイルを安全なクローズドな空間で一元管理でき、ファイルのバージョン管理やメンバー内でのアクセス制御が容易になります。共通基盤の上で研究データを一元管理することで、誰でも必要なデータに迅速にアクセスできるようになり、データの「棚卸し」が簡単になるため、研究データを取り巻く研究者や研究支援者の業務が効率的になります。 RDMは、個人の暗黙知を組織の共有財産たる形式知へと転換し、研究の基盤を強化します。
RDMは、研究データの「保存」「管理」「共有」「証跡管理」を統合的にサポートします。これにより、研究者は「必要なデータがどこにあるか分からない」という悩みを解消し、本来の研究活動に注力できるようになります。例えば、国立情報学研究所(NII)が提供するGakuNin RDMは、研究プロジェクト実施中にクローズドな空間でデータ管理を支援する代表的なシステムです。
3. RDMが実現する3つの核心的メリット:FAIR原則と再現性
RDMの導入は、研究者と組織の両方に多大なメリットをもたらします。最も重要なのは、国際的に求められるデータの共有・公開に関する原則である「FAIR原則」を実現することです。FAIR原則は、Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)の頭文字を取ったもので、RDMシステムは、この原則に沿って研究データにメタデータや永続的識別子(DOIなど)を付与することで、データの価値を最大化します。 RDMの具体的なメリットは以下の通りです。
- データ分析時間の短縮と生産性向上: 適切なメタデータ管理により、データの検索・準備に費やす時間を短縮し、データ分析そのものに集中できます。適切な管理によるデータ分析時間の短縮は、研究者の競争力向上に直結します。
- 研究の再現性と研究公正の確保: 研究データの操作履歴やバージョン管理、研究証跡を自動で記録することで、研究の透明性が向上し、再現性が高まります。これは、研究公正の観点から非常に有益です。
- 資金調達力と競争力の向上: 公的資金による研究では、研究データ管理計画(DMP)の策定やメタデータの付与が求められることが増えています。例えば、競争的研究費制度におけるDMPの仕組みの導入率は2022年度末時点で約66%に達しており、RDMの実践は助成金獲得の競争力向上に不可欠です。 RDMは、これらの資金配分機関の要件の充足をサポートします。
4. RDMシステムの主要機能と導入ステップ
RDMシステムがナレッジマネジメントを効率化するために備えるべき主要な機能は多岐にわたります。システムの導入は、単なるツールの導入ではなく、組織的なデータ管理の方針を確立するプロセスです。具体的な導入ステップとしては、まず「データポリシーの策定」が不可欠であり、国立大学・大学共同利用機関法人・国立研究開発法人においては、2025年までにデータポリシーの策定率100%を目指す目標が設定されています。
プロジェクト開始時に、データの種類、保存期間、公開・非公開の区別などを定めたDMPを作成し、システムに登録します。これはデータライフサイクルの羅針盤となります。
データに「誰が、いつ、何を、どのように」行ったかを説明するメタデータを付与します。これにより、システム上でデータを検索可能とし、再利用を促進します。
共同研究者間での安全なデータ共有、アクセス権限の厳格な管理、そして外部ストレージとの連携機能を提供します。
RDMシステムは、研究者が管理対象データにメタデータを付与し、研究データ基盤システム上で検索可能となるように登録することを求められる、国の方針と連動しています。
5. 成功事例に見るRDMによる研究生産性の向上
RDMシステムは、アカデミアだけでなく、素材産業などのR&D部門においても具体的な成果を上げています。例えば、ある化学メーカーでは、研究開発におけるデータの属人化が課題でしたが、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)プラットフォーム(RDMの一種)を導入することで、活用可能なデータ蓄積を実現しました。このMI活用テーマでは、従来と比較して驚くほどの短納期で開発が完了し、研究開発期間の短縮という成果を獲得しています。 これは、RDMが過去の実験データを形式知として体系化し、AIやMIによる解析基盤を提供することで、研究のPDCAサイクルを劇的に加速させた典型的な事例です。また、学術分野では、同志社大学や九州大学などの国内大学が、研究公正の要請に応えつつ、組織的なRDMサービスを構築し、研究データポリシーを策定する取り組みを進めています。 このように、RDMは、研究データを将来にわたり再利用可能な資産として位置づけ、組織全体のリサーチ・インテグリティ(研究の健全性)と生産性を高める基盤となっています。
| RDM導入前 | RDM導入後 | 効果(定性的・定量的) |
|---|---|---|
| データがローカルPCや共有フォルダに散在 | 共通基盤で一元管理、メタデータ付与 | データ検索時間が平均40%削減(想定)、再実験コストの抑制 |
| 実験データが担当者の「暗黙知」に依存 | DMPと証跡機能でプロトコルを形式知化 | 研究の再現性が向上し、引継ぎがスマート化 |
| 共同研究者とのデータ共有が煩雑 | 複数機関間でセキュアなアクセス制御が可能 | 共同研究の立ち上げ期間が約20%短縮(想定) |
6. RDM導入における課題と選定時の注意点
RDMシステムは強力なツールですが、その導入は、多様な分野の研究データの取り扱いや、部署横断的な管理体制の構築など、多くの課題を伴います。特に、研究者の意識変革を促すことが重要であり、システムを導入するだけでなく、RDMを実践するための人的支援体制(データスチュワードなど)を構築することが成功の鍵となります。
RDMは、研究者自身がデータの取り扱い計画(DMP)の策定や、研究後の長期的なデータの取り扱いを考え、実践していくことを指します。システムはあくまでその実践をサポートするツールであり、RDMを組織全体に定着させるには、研究者への教育とインセンティブ設計が不可欠です。
RDMシステム選定時には、以下の3点に特に注意してください。①拡張性・連携性: 既存のストレージ(クラウド・オンプレミス)やデータ解析ツール(Jupyterなど)との連携が容易か。②メタデータの柔軟性: 研究分野やプロジェクトの特性に合わせたメタデータ項目を設定・カスタマイズできる柔軟性があるか。③セキュリティと証跡管理: 第三者機関による時刻認証(タイムスタンプ)などの機能を有し、研究公正への対応が確実に行えるか。
まとめ
研究データ管理(RDM)システムは、実験データ検索の非効率性という長年の課題に対する、ナレッジマネジメントの観点からの最良の解決策です。RDMは、個人に依存していた実験データとその背景情報(暗黙知)を、FAIR原則(Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)に基づいた体系的な形式知へと変換します。これにより、研究者はデータ分析時間の短縮という直接的なメリットを享受し、組織は研究の再現性向上と研究公正の確保という、リサーチ・インテグリティの強化を実現できます。公的資金による研究におけるDMP策定の義務化など、RDMの必要性は国内外で高まっています。RDMシステムの導入は、システムの機能選定だけでなく、DMP策定支援やデータスチュワードの配置といった組織的な支援体制の構築が成功の鍵となります。RDMを適切に導入・運用することで、研究開発のスピードと質を飛躍的に向上させ、組織の競争力を根本から変革することが可能となるでしょう。
株式会社ヘルツレーベン代表 木下 渉
株式会社ヘルツレーベン 代表取締役/医療・製薬・医療機器領域に特化したDXコンサルタント/
横浜市立大学大学院 ヘルスデータサイエンス研究科 修了。
製薬・医療機器企業向けのデータ利活用支援、提案代行、営業戦略支援を中心に、医療従事者向けのデジタルスキル教育にも取り組む。AI・データ活用の専門家として、企業研修、プロジェクトPMO、生成AI導入支援など幅広く活動中。

